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 風蘭の空洞植

 伝統的な富貴蘭の空洞植を紹介します。
 風蘭に限らず、名護蘭、その他の着生蘭に応用が可能です。
 植え替え中に自分で片手で写した為、構図、背景、ピントが悪いです。


今回使用した水苔

今回使用した水苔

 富貴蘭の専門店に依頼し、取り寄せて貰ったニュージーランド産のもので、品質は比較的良好でした。
 重量は3Kgで31cm×33cm×56cmに圧縮されてビニール袋に封入されています。
 個人差がありますが、これで150〜200鉢の植え替えができます。
 袋の表面にAAAAの文字が見えますが、Aの数が多い程ランクが高く、AAAAは一般品では最高ランクです。
 ランクが高い程、1本の茎の長さが長く、AAAA以上の特級品もあります。
 業者により、差があると思いますが、AAAA3Kgで1万円前後で入手出来ると思います。
 選別や、この後の植え替え作業を楽にする為に、多少高くても、ランクの高い水苔を購入してください。
 富貴蘭以外で、空洞植をしない場合にはもう少しランクが低くても大丈夫です。


水苔の準備

水苔の準備

 必要なものは、バケツ2個、水苔を入れるカゴ、水苔です。
 あと、水苔の芯(台)を作る為の型として、小さなビンやガラスコップ(形が似ていれば何でも良い。)等を 1個、用意します。
 バケツの一つに乾燥水苔を入れ、上から注水して水を満たし、十分、吸水させます。
 水苔を取り出し、茎を切らないように、両手で押すように絞り、空のバケツに移し、再び注水して吸水させます。
 最初のバケツは汚れた水を捨てて空にしておきます。
 再び水苔を絞り、空のバケツに移します。(水苔の汚れ方に応じ2〜3回繰り返します。)
 このように水苔を洗ってアクを抜き、この後、水苔の長さを選別します。
 絞った水苔をカゴに移す時、台(芯)にする短い水苔と、上巻き用の長い水苔に選別し、ついでにゴミを除きます。
 長い水苔は20cm位必要です。


片手に水苔を載せる

片手に水苔を載せる

 まず、台(芯)を作る為の水苔を用意します。
 片手を広げ、短い水苔を掌に、やや厚めに載せます。


台を作る

台を作る

 台の芯にする「型」を用意しますが、今回は小型のガラスコップを使用しました。
 「型」は小型の空き瓶など円筒形のものなら何でもよく、直径は40〜50mmとします。
 鉢の内径により、型の直径を変えると良いです。
 ガラスコップの底面を上にして、ここに片手に載せた水苔を被せます。  両手で包み込む様にして、型に水苔を押しつけます。
 水苔の薄い部分に、繊維を縦にして、水苔を追加し、再び両手で圧縮して、形を整えます。

ポリ容器  (追補)ガラスコップを型として使っていましたが、現在ではホームセンターで購入したポリ容器を使用しています。
 軽くて、割れる心配も無く、手で握りしめた位では潰れない固さを持っているので重宝しています。


台に富貴蘭の根を跨がせる

台に富貴蘭の根を跨がせる

 富貴蘭は古い水苔を除き、根を良く洗っておきます。
 富貴蘭の根を四方に広げ、台の上に被せます。


上苔を巻く

上苔を巻く

 根の上から水苔を掛けて行きますが、長い水苔を節約する為に最初は短い水苔を掛けます。
 繊維を縦にして、薄く均等に掛けていきます。
 最後に形を整える為に長い水苔をたすきがけにします。


鉢に収める

鉢に収める

 鉢を用意します。
 型(この場合はガラスコップ)を抜いて、鉢に収めます。
 鉢底から指を入れ、内部の空洞を拡げるように水苔を鉢の内壁に押しつけます。
 これで完成です。


水苔の入手先

 私は富貴蘭の専門店に依頼しましたが、園芸雑誌の広告、インターネットの検索などで水苔業者を捜し 通信販売で直接発送してもらう方法もあります。
 一般の園芸店に置いてある水苔は、茎の長さが短く、空洞植には適しませんが、普通に使用するには 問題ありません。


鉢数が少量の場合

 蘭の専門店では仕入れた水苔を小割にして販売することが多いです。
 通信販売でも3Kg単位でなく、もっと少量の単位で販売している場合もあります。
 いずれにせよ少量だと割高になります。
 急に植え替えが必要になることもあり、ある程度のストックも必要となるので、できるだけまとめて 購入する事を勧めます。
 乾燥したまま、日の当たらない場所に保管すれば2年間くらいは保存できます。


長い水苔が手に入らない場合

 空洞植をするとき、どうしても長い水苔が手に入らない場合は以下の様にします。
 台苔に根を被せるまでの手順は同じです。
 上苔を根の表面に巻くとき、全て短い苔を使用しなければなりません。
 作業中に水苔が剥がれないように、水分を多く含ませます。
 根の上に水苔を貼り付けていき、形を整えて鉢に収めます。
 このままだと乾けばバラバラになってしまうので表面を木綿糸で、ぐるぐる巻いておきます。
 手間が掛かり見た目も悪いので出来るだけ長い水苔を用意してください。


毎年植え替えが必要か

 若干、調子が落ちると言う人もいますが、1〜2年、植え替えなくても枯れる事はありません。
 しかし、この間、空中に根を伸ばすので、隣の鉢と根が絡んだりして取り扱いが不便になります。
 また、その年に植え替える鉢と植え替えない鉢が出てきて管理が複雑になります。
 毎年1回、必ず植え替えると決めた方が作業が単純です。


国産の水苔が良いかニュージーランド産が良いか

 結論から言うと大差ありません。
 しかし、同じ国産、同じニュージーランド産のなかに、それぞれ、良質のものと不良品があります。
 最近は、国産のものが入手困難になり、ニュージーランド産を使うことが多いと思われます。


上手に植えるコツは

* 自信が無ければ素焼き鉢を使う
 3.5号の素焼き鉢なら空洞植えにしなくても富貴蘭を育てる事が出来ます。
 それに、長さの短い安い水苔が使えるので経済的です。
 普通に、やや盛り上がる程度に植えれば良いので特に技術は必要ないです。
 どうしても空洞植えをしたいなら、まず安い品種で十分に練習する事です。
 以下は空洞植えのコツです。

* 良質の水苔を使う
 粗悪な水苔をを使うと綺麗に植えるのが難しくなります。

* 初心者は株立ちを避ける
 株立ちは根の処理が大変ですので、慣れるまでは株分けして1本立ちで植えた方が楽です。
 子付き程度であれば1本立ちと同じ感覚で扱えます。
 豆葉の品種は比較的、株立ちが楽に扱えます。

* 根を整理する
 古い根が沢山あると古い軸も伸びていて植え付けにくくなります。
 1本立ちの場合、健全な根が5本もあれば、それ以上の古い根は必要有りません。
 不要な古根は古い軸ごと切り落としてしまいます。
 これで、植えやすくなり、株も若返ります。
 ただし、下の方から子が出ている場合は古い根を残します。
 (子に親の古根を付けて切り分けてしまう方法も有ります。)

* 台苔の形を整える
 まず、台苔の形を美しく作る必要が有ります。
 比較的多めの苔を手のひらに載せて、その上に型を載せ、ひっくり返して十分押し固めます。

* 株を中央に置く
 株の位置が端に寄っていたり、真っ直ぐ立っていないと見た目が悪いです。
 ただし、割子の場合は根が偏っていたりして真っ直ぐに立ち上げるのが困難な場合があります。
 この場合は一時的に竹串で矯正します。
 この時も必ず軸は台苔の中央に置きます。

* 長い根の処理
 長い根は切らずに下の方で台苔に巻き付け鉢に納めます。
 根の先端まで水苔に覆われている必要はなく、むき出しのまま鉢底に納めてしまえば良いです。
 長い根を納めるには楽鉢が適しています。
 短冊状に切り欠きのあるプラ鉢は、根の先端が切れ込みから出て大変です。

* 古い花茎や袴を除く
 予め枯れた花茎は短く切り詰めるか取り除いておきます。
 枯れ葉の袴も注意して取り除いておきます。
 袴の裏に芽当たりが隠れている場合があるからです。
 固くてとりにくい場合は残しておいても問題ないですが、見た目が悪いので私は取り除いています。


必要な根の本数

 よく株分けの時に3本以上の根が必要と言われます。
 実際には健全な根が1本あれば枯らすことはありません。
 ただし、空洞植えにすると、ぐらつくので素焼き鉢に、やや深植えし、竹串の支柱を添えます。
 「(根が)2本で枯らす者は3本でも枯らす。」これは先輩の言葉です。
 要は、その後の管理の問題です。
 植え替えの時、欠けてしまった根の無い子でも、時期と管理が良ければ発根してきます。


鉢の正面

 楽鉢には足が3本あります。
 鑑賞上の決まりで、3本足の1つが正面を向くよう置きます。
 錦鉢の場合は3本の足の内1つの足の位置が絵柄の正面になっているので、正面は1つだけです。
 鉢の正面と株の正面を合わせます。
 一本立ちの場合、花茎を出しやすい方を普通は正面にします。
 水苔植の場合、型くずれしないように注意すれば、植えた後でも全体を回して位置を調整することが出来ます。
 砂植の寒蘭等では一旦用土を入れると位置を変える事は出来ないので、植え直すことになります。
 プラ鉢では足が4本のものもありますが、もともと観賞用では無いので、正面は気にしないでも良いと思います。


植え替えの時、根の無い子が取れてしまった

 株分けの時、根の無い子が取れてしまうことがあります。
 この時はダメ元で挿し木をします。
取れてしまった子
 写真は鯱甲龍で2009年10月に植え替えた際、取れてしまった子です。
 写真のように、根は全くありません。
挿し木
 実生苗を植えた素焼き鉢に挿してみました。
 乾かないように、少し水を多目に管理します。
発根
 2010年5月初めの様子です。
 3ヶ所、発根しているのが判ります。
 この状態なら、確実に生育するはずです。
根が伸びた
 2010年7月初めです。
 根が、かなり伸びました。
 このように、根の無い株でも発根してきます。
 ただし、必ず、発根するとは限らず、枯れてしまうこともあります。
 強健な種類で、生育の良かった株であったこと、管理に注意した点が幸いしました。
 私は、都合により秋に植え替えているので、半年以上、根の無い状態で過ごしたことになります。
 春4月頃、植え替えれば、直ぐに生育期となりますので、ずっと有利になります。
 この時期なら親株の方も大胆な古根の整理が可能ですので、出来るだけ春に植え替えることを奨めます。


最近はAAAAAが増えてきた

 長い間、水苔はAAAAが一般向けの最高級品でしたが、最近(2012年現在)はAAAAAが入手できます。
 価格はAAAAより1割程度高いようです。
 水苔のランクを決定する基準が存在するのかどうかは知りませんが、2年前に入手したAAAAAはAAAAと大差 ありませんでした。
 今年、入手したAAAAAは長い苔の割合が多いようです。
 2年前のAAAAAと今年のAAAAAは販売業者が異なります。(同じ富貴蘭販売店に取り寄せてもらいましたが)
 業者やロットによって優劣があるようですが、袋に入った状態では見分けが付かず、当たりはずれがあります。
 販売戦略上、以前はAAAA相当の水苔をAAAAAとして販売している業者があるかもしれません。


水苔が手に入らない

 最初は全ての富貴蘭を水苔で植えていたのですが現在は半分強を砂植えにしています。
 理由は水苔の値段が高騰した為です。
 水苔は富貴蘭の専門店から購入していました。
 3Kgのニュージーランド産水苔は長い間1万円でしたので2〜3袋買っていました。
 ところが、ここ数年の間に1万4千円、2万円、2万4千円と上がりました。
 そこで1年に1袋だけ購入し、これで大切な株だけを植え換えし残りは砂植にしました。
 今年(2022年)は水苔が全く手に入りません。
 専門店で入荷の見込みが無いと言われ、ネットでも全て売り切れ状態になっています。
 ただ、安い粗悪な水苔は近くの園芸店で買うことが出来ました。
 この水苔は繊維が短く上巻きに使えないだけでなく、ゴミや変色した古い水苔を除くと半分くらいの量になってしまいます。
 やっとのことで60鉢位を植え換え、残りの300鉢は砂植になってしまいました。
白木綿糸で巻く
 繊維の長い苔が無いので白の木綿糸で巻いた株です。
 白い糸は苔が濡れた時に目立ち、乾くと目立たなくなります。
黒木綿糸で巻く
 黒の糸で巻いた株です。
 黒い糸は濡れたとき目立たず乾いたとき目立ちます。
 富貴蘭の内7〜9割程度は砂植で栽培出来る様ですが金牡丹のように砂植では育たない品種もあります。
 (実際に枯らしました。)
 良質の水苔が入手出来ない時の為に多くの品種の砂植を試しています。


水苔の鮮度

 水苔は品質によってランク分けされているという事は前に書きました。
 ランクが高い水苔はゴミが少ない、見た目が綺麗ということもありますが繊維の長い苔が多く含まれているという事も要求 されていると思います。
 購入した水苔は植え替え前の下処理で土台に使う苔と上巻きに使う苔に選別します。
 長い苔は巻きやすいように繊維を揃えて並べておきます。
 長い苔は土台にも使えますが短い苔は上巻きには使えません。
 繊維が長い苔が多く含まれていれば選別も植え付けも作業が楽になります。
 長い水苔の含まれる割合はランクの影響も受けますが鮮度の影響も大きいです。
 水苔は採取してから時間が経つと徐々に乾燥してきます。
 乾燥した水苔は繊維が脆くなり、袋から出したり下処理したりしたときに切れやすくなります。
 長い間保管して乾燥した水苔は見た目は悪くないですが使用時に問題があります。
 常に新鮮な水苔を仕入れている業者さんから送られてくるものは少し湿っています。
 買い溜めして相場の高いときに小出しするような業者さんから送られてくる水苔を「綺麗に乾燥している。」と喜んでは いけません。
 5Aより4Aの水苔が良かったという事も経験しますが鮮度の影響もあると思います
 最近、水苔が入手しにくくなっているので買い溜めしてオークションに出品している人もいるようですが 鮮度が落ちている可能性があります。
 使う側も必要以上に買い溜めしないことが重要です。
 常に新しい水苔が入手できれば作業も楽です。
 買い溜めが品不足を招き悪循環となります。
 繊維を揃えた長い水苔が袋入りで売られていることがあります。
 この場合、非常に乾燥しやすい状態になっています。
 袋に入った状態では長い繊維ですが作業時に細かく切れてしまうことが多くあります。
 以前、作業前に霧吹きをして繊維を柔らかくして、そのまま上巻きしたことがあります。
 作業的には良かったのですが全ての鉢に黒カビが生えました。
 それ以来、必ず水に浸けて上澄みを流すようにしています。
 繊維に力が加わらないように注意して洗っています。


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